NEWS

HOME > NEWS > [2024] 審査委員 オッコ・カム氏インタビュー

[2024] 審査委員 オッコ・カム氏インタビュー
聞き手:小田島久恵



――オッコ・カム先生は1次予選、2次予選ともバルコニー席から聴かれておられましたね。

「参加者の動きが良く見えますし、顔もよく見ていました。最初にドアから出てくるときにどれくらい自信をもって出てくるかというのも見ていましたよ。審査委員に対しての態度だけではなく、オーケストラに対しても自信を持っている指揮者というのはいい印象を与えますし、緊張して「私がここにいていいんでしょうか?」みたいな態度をとっていると、そのような音楽になってしまいます」


――なるほど。1次予選ではモーツァルトの『交響曲第38番』と『魔笛』からタミーノと僧侶のレチタティーヴォを18人の参加者が指揮しました。

「モーツァルトのレチタティーヴォは技術的に大変難しい曲で、指揮者はこのオペラについてよく分かっていなければなりません。タミーノと僧侶の役割を理解している必要があり、すべての間とテンポに意味を持たせなければならないのです」


――実際にモーツァルトの指揮からはどのような参加者の資質が分かるのでしょうか?

「すごくたくさんのことが分かると思います。どれだけきちんと音楽を理解しているか、『魔笛』なら、歌手の邪魔をするのではなく助けることが出来ているかどうか。歌手とオーケストラのバランス、そして木管楽器と弦楽器のバランス、オーケストラがどのように反応しているか…といったことなどです。勿論、他のレパートリーも大事ですが、今回のモーツァルトで彼らの素質というのはとてもよく理解出来ました」


――2次予選にはたくさんの日本人が進みました。日本はクラシック音楽に関して欧米と比べて比較的歴史の浅い国なのですが、今後、日本の若い指揮者に必要な経験はどのようなことだと思いますか?

「日本が早くにヨーロッパの文化を取り入れて、素晴らしいものにしていったことはとても感心すべきことだと思います。大切なのはクラシックという西洋のものを学びつつ、指揮者自身も自分の文化の伝統を忘れないということではないでしょうか。指揮者というのは、自分に対して嘘をつかない立場でいることが大事ですので。自分の出自を分かっていて、西洋の音楽をやるということを忘れないでほしいですね」


――マエストロの国フィンランドではクラウス・マケラを筆頭に若く優秀な指揮者を多く輩出していますね。育成する環境が整っているのでしょうか? それともDNAでしょうか?

「フィンランド人の性格を考えないといけないかなと思います。フィンランドは個人主義の文化が強く根づいていることもあり、指揮者が多いんじゃないでしょうか」


――そうだったのですね。マエストロご自身はどのような指揮に感動されますか?

「私のフィロソフィーとしては、レス・イズ・モア(なるべく少ない方がいい)ということがあります。オーケストラはみんなプロフェッショナルで、もう既に演奏の仕方は分かっているんです。幼稚園児ではないし、こちらも先生である必要はない。共通の理解を得るために、少しの指示を与えればいいだけなのです」


――1次と2次の予選では、主に日本人の参加者が細かいところをオーケストラに言い過ぎていたかも知れません。

「オーケストラに対し、自身が蓄えてきた知識を共有したいというのは理解できますが、それを自慢する感じになってしまうと均衡を保てなくなる。オーケストラを尊重する姿勢も求められるでしょう」


――コンクール全体を通して、参加者に足りないと思った部分についても教えていただけますか?

「全体として、フォルテの幅がもっとあるべきだったと思います。フォルテとフォルテシモの差がほとんど感じられない人が結構いました。たまにとても良いピアニシモを聞くことが出来たんですが、もっとダイナミクスの幅を聴けたらよかったかなと思います」


――参加者たちの最終的な目標はプロの指揮者になることだと思うのですが、彼らに助言を与えるとしたらどのような言葉になりますか?

「Be human. 人間でいなさい。自分が神だと思わないように。神のようになるということは出来ないことなので、人間でありなさい」




参加者講評にて