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[2024] 審査委員 ジェフ・アレクサンダー氏インタビュー
聞き手:小田島久恵



――今回のコンクールでは1989年生まれの35歳の参加者から2004年生まれの20歳の参加者まで年齢も国籍もキャリアも様々な指揮者たちが集まりました。全体の水準としてはどのように評価されていますか?

「水準の高さに大変感心しました。1次予選のときはステージ上のヴァイオリン側で聴いておりまして、指揮者がオーケストラの音楽家たちとどのようにつながっているか、的確な指示を与えているかなどを、音楽家たちと同じ目線で見ていました。2次予選ではバルコニーで聴いておりましたが、1次と同じような点を今度は高い場所から見ていました。ファイナルでは皆さんと同じ客席にいたわけですが、指揮者が聴衆に対してどのようなムードを与えているかを見ることが出来たので、とても意義があったと思います」


――総裁から見て、将来有望な指揮者とはどのような資質を持つ音楽家でしょうか?

「指揮者になるには大変な時間がかかりますし、とてもハードな職業です。まず最も大事なベースはテクニックで、基本のスキルとして右手でしっかりアンサンブルを作ることが出来るか、テンポ指定やキュー出しが出来るかということが挙げられます。そして左手で音楽性を表し、フレージングなどを指示することが出来るか。あときちんと音楽を分かっているか、スコアを理解しているかが重要です。すごく主観的なところでは、どれだけお客様にインスピレーションを与えられるか、カリスマ性を持っているかという要素も大事だと思います」


――優勝したミハイリディスさんはその点で総合的に優れていたのですね。

「彼は最初から突出していたんですけれど、指揮者としての経験をたくさん積んできているということも大きかったと思います。指揮もはっきりしていて安定していたし、私が先程述べた理想的な指揮者の条件がすべて揃っていて、オーケストラの音楽家たちをまとめていくことが出来ていました。聴衆が興味を抱くような音楽を作っていたことも重要なポイントだったと思います」


――2位のコート=ウッドさんはいかがでしたか。

「いつも左手の話ばかりするわけではないんですけれど(笑)彼は左手を非常に効果的に使っていて、音楽性も優れていたので、これからの成功が約束されていると思いました」


――3位の吉﨑理乃さんはどのように評価されていますか?

「彼女はとにかく物凄くいい音楽性を持っていて、勇敢だったと思います。身体と精神でどのような音楽を作りたいかということをオーケストラに伝えることが出来ていました」


――予選では東京フィルハーモニー交響楽団が、本選では新日本フィルハーモニー交響楽団が演奏をしました。この2団体についてはどのように聴かれていましたか?

「本当に素晴らしい! もう言葉もないくらいです。以前も日本のオーケストラを聞いたことがあるのですが、今回は物凄く感心いたしました。テクニックは問題なく完璧であった上に、若い指揮者たちに対してとても敬意を払って演奏して、彼らが表現したいことを全てくみ取っていました」


――審査に参加されて、このコンクールにはどのような特徴があると思われましたか?

「とてもオーガナイズされている点が素晴らしいです。参加者に対してもいい指示を与えていましたし、オーケストラもよく準備されていました。コンクールで特に私が好きだったことの一つに、結果発表の後に次に進めなかった参加者たちと意見を自由に交わし合える場があったということがあります。その際に私は参加者の皆さんに「YouTubeでこういう素晴らしい指揮者がいるから見てごらんなさい。とても左手を効果的に使っています」とお勧めしていたんです。全ての審査委員が同じアドバイスを与えていたとは思いませんが、こういう場を設けることは大変有益だと思います」


――今の若者はデジタル世代の申し子で、iPhone 世代とも言える人々ですが、音楽的にも新しい特徴はあると思いますか?

「今のところiPad を使って指揮をする参加者はいませんでしたが、本当にこの15年、20年で色々なことが変わってきて、このコンクールが始まった57年前とは違うことも多いと思います。一番いいこととしては、今の指揮者はたくさん勉強する機会があるということですね。昔ならスコアを何とか手に入れようと図書館に行ったり、自分で買ったりして、LPレコードを聴いて勉強していたと思いますが、今ならYouTubeで10人の指揮者が同じ曲を指揮するのを見ることも出来るわけです。そういうことがデジタル世代のいい面だと思います」




参加者と意見交換