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[2024]審査委員・下野竜也氏インタビュー

文・真嶋雄大(音楽評論家)

2000年の東京国際指揮者コンクール(旧・東京国際音楽コンクール)で優勝した下野竜也が、今回初めて審査委員として名を連ね、本選での感触を詳細に語ってくれた。


参加者18名の演奏を第1次予選から全員拝見して、その時からひとつ抜きん出た方が第1位のミハイリディスさんでした。指揮の技術もですが、オーケストラとすぐに音楽的コミュニケーションが取れ、引き出す音に説得力がありました。例えばシューマンなどでは、どうしてあのような指揮をするのかと思った箇所が所々ありましたが、実際の演奏を聴くと、全てが腑に落ちたんです。首尾一貫、ご自身の想いとかイメージを持って進めているのが明確で驚きました。かなり完成されているレベルでしたし、かと言って威圧的ではないし、オーケストラとのコミュニケーションをきちんと取っていて、今後どのように発展されるか、とても興味深いと思いました。

第2位のコート=ウッドさんは、とにかく音のきれいさに驚きました。それがクラシック音楽のひとつの醍醐味でもありますが、とても印象に残りました。音楽的流れに無理がなく、バルトークもユニークな運びであるし、「魔笛」での歌手とのやり取りからしてオペラの内容を熟知しているし、藤倉さん作品もとても明晰で、響きを念頭に置かなければ混濁してしまうところ、濁りがまったくありません。とてもよく研究なさっていました。メンデルスゾーン「スコットランド」は正直テンポが少し速いのではと思いましたが、若さ溢れる感じで、微笑ましく拝聴いたしました。彼の持つチャーミングさかもしれませんが、可能性をとても感じました。

第3位の吉﨑さんは、私も教えている東京藝大指揮科に在籍していることは知っていました。ある種派手さはないのですが、モーツァルトにしてもシューマンにしてもバルトークにしても外面的なアピール点こそあまり感じられないものの、紡ぎ出す音には作曲家への想いが強く出ていて魅力的だと思いました。第1位、第2位の方に比べて経験値は少なく、年も若いのですが、リハーサルでも自身の想いを丁寧に伝えていて、それがきちんと音になっているのは立派だなと思いました。本選ではやや停滞する場面が散見されましたが、彼女の誠実な音楽が大河のように流れて終着駅に着いた時は、指揮者としての可能性を十分に感じさせました。

入選の岡崎さんも、チャイコフスキーはただ盛り上がればいいのではなく、自分なりの工夫をされていて、若さ溢れる思いをぶつけていい演奏になっていたと思います。

今回初めて審査委員として、大変緊張したが、参加した全員の良い部分をたくさん見せてもらったと振り返った下野。現在、N響正指揮者、札幌響首席客演指揮者等を務める下野が優勝した2000年の同コンクール予選参加者は8名(応募は176名)。その時に比べても全体のレベルは今の方が遥かに上がっているという(今回は37カ国・地域から291名が応募)。このコンクールは回を重ねるごとに、よりインターナショナルな度合いが増しているのではと締めくくった。



参加者への講評



審査前、オーケストラとのリハーサル