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10月14日、入賞者発表記者会見を開催しました
原納暢子氏によるレポートを掲載します

◆「東京国際指揮者コンクール2024」の「入賞者発表記者会見」ダイジェスト

「東京国際指揮者コンクール2024」の「入賞者発表記者会見」が10月14日14時から民音文化センターで開催された(以下敬称略)。

<出席者>
・組織委員長・一般財団法人民主音楽協会 代表理事 山口浩二
・審査委員長 尾高忠明
・審査委員 ジェフ・アレクサンダー、マイク・ジョージ、広上淳一、オッコ・カム、下野竜也、ユベール・スダーン、高関健(アルファベット順)
・受賞者 1位/オーケストラ賞 コルニリオス・ヴィクトル・ミハイリディス、2位/聴衆賞 ライリー・ホールデン・コート=ウッド、3位/齋藤秀雄賞 吉﨑理乃

冒頭、山口組織委員長が挨拶し、37カ国から、291人の応募があり、ビデオ予選を通過した18人のコンテスタントが東京に集結してレベルの高いパフォーマンスをしたことや関係者への謝意などを述べた。

次いで、尾高審査委員長が、1970年に出場した当時を振り返り、ここ数回のレベル向上には目の見張るものがあることや、前回はコロナ禍にもかかわらず開催できたが、誰とも接触できず残念だったことなどを語ってから、今回の総評に入った。



「300人近い指揮をビデオ審査するのは大変だった。だが1次審査が終わったとき、審査が正しかったと皆で思えた。レベルの高い人を選んでいて、例えば、モーツァルトの歌劇『魔笛』のタミーノと僧侶のレチタティーヴォは、指揮がとても難しいので、半数くらいできないのではないかと思っていたのに皆ちゃんとできていた」などと、具体例を挙げて説明。

さらに「1位のミハイリディスは、今そのままの状態で世に出ていける、オーケストラが迷わず演奏できる、その証拠に演奏をした新日本フィルから『オーケストラ賞』を授与された。2位のコート=ウッドは、背の高い人にいい指揮者はいないと言われるのに見事な指揮で、特に本選の課題曲では、日本人作曲家・藤倉大の新たな面を見ることができた。3位の吉﨑は、まだ学生で若いが、姿勢がよく、音楽を素直に表現し、好感が持たれる。次回も受けて1位を目指してもいいかな」などと、ジョークも盛り込んで和やかに受賞者を寸評。ちなみにコート=ウッドは身長187cm、ミハイリディスも同等に長身である。


受賞者は、今の気持ちをひと言ずつ語った。

3位の吉﨑は「とてもうれしい気持ちでいっぱいです。本選に残れるとは思ってなかったので、演奏できてよかった。課題もよく分かったので勉強を続けたい。齋藤秀雄賞までいただけて光栄です」。



2位のコート=ウッドは「初めて出場できた指揮者コンクールで、皆レベルが高かったので、1次が終わったとき、この先は楽しいホリデーになるかもと思った。2つの素晴らしいオーケストラと演奏できて、ここまで来られた。認めてもらえてうれしい。審査員の先生にいろいろ講評してもらえて課題もよく分かった」



1位のミハイリディスは「まず関係者や審査員の皆さんに御礼を言いたい。レベルが高く、素晴らしいコンクールに参加できて感謝している。未だに結果が信じられない。数日かけて実感していくと思う。コンクール中は、他人とではなく自分との闘いだと思って取り組んだ。初めての日本で東京観光は出来なかったけれど、素晴らしいオーケストラと共演でき、日本文化にも少し触れられたと思う。また来日したい」



質疑応答では、審査員全員から審査のポイントやコンクールの感想などが語られた。



初参加の下野審査委員「技も大切と思うが、いい音楽を紡ぎ出せていたかが大切。年の差があり、経験値、リハーサルの進め方、マナーなどいろいろ判断材料は多かったが、決定した順位で良かったと思う」

高関審査委員「コンクールには受けるにふさわしい時期がある。1位のミハイリディスはいい時期に受けたと思う、2位のコート=ウッドは藤倉作品で日本人のテクスチャーなどをよく理解していた、3位の吉﨑は大学で教えたこともあって言いにくいが、審査員の方々の評価が高くてよかった」

広上審査委員「審査の先生によって順位のつけ方はそれぞれある。経験値、完成度、将来性など、持っているものは三人三様で悩ましいが、皆で相談してこうなった。18人それぞれに才能があるので、今後も全員を温かく見守ってほしい」

オランダ出身のスダーン審査委員「私は5回目の審査になるが、毎回観客も増え、今回はコンテスタントの完成度が一番高く、いい大会だった。一番熟成した内容だったと思う。3位吉﨑の自由曲、R.シュトラウスの交響詩『死と変容』は魂から音が出ていた。約束された将来があると思う。1位、2位は、すでに話されている通り、素晴らしい」

フィンランドのカム審査委員「世界中でこんなに素晴らしいコンテスタントや先生が集うコンクールがあるだろうか。コンテスタントがすぐに振れる素晴らしいオーケストラを2つも用意できるなんてない。主催者の民主音楽協会に感謝している」

英国でオーケストラのプロデューサーをし、来日約25回のジョージ審査委員「コンテスタントの年齢は関係ないと思う。カム審査委員のフィンランドでも若手を多く輩出している。このコンクールはレベルが徐々にアップし、今回の完成度も高かった。3位吉﨑は、日本の新しい指揮者を発掘した気分。『死と変容』の死からその先の世界への変化が見事だった。2位コート=ウッドの藤倉作品のストーリー性をはじめとする表現も素晴らしかった」

米国・シカゴ交響楽団総裁のアレクサンダー審査委員「初めて審査に招かれた。普段楽団のマネージャーとして仕事をすることが多いが、コンテスタント18人と審査員の皆さんと快適に仕事が出来た。レベルの高さだけでなく、残らなかった人にアドバイスを与える時間があったのがすごくよいことだと思った。私とジョージ先生は指揮者ではないが、日常、楽団の現場に接している。『もっとこうしたらいいのに』と思うことがたくさんあるので、この講評時間は意味深く、とてもよかった」



全員のコメントを受けて、尾高審査委員長が「以上の通り、皆の総意で順位を決めた。僕が第2回を受けたとき、1位は小泉和裕さんで僕は2位だった。小林研一郎さんや井上道義さんも出場していた。入賞したかどうかにかかわらず、皆その後ずっと活躍している。カラヤンとバーンスタインは、年齢は離れていたが、現役時代よきライバルだった。今回出場した皆も近い将来そうなるのではないだろうか」などと締めくくった。



最後に、入賞者3人が指揮者を目指したきっかけやいきさつをコメント。

吉﨑は「小さい頃からピアノを習っていたが、幅広い音楽を教えてくれる先生で、オーケストラに興味を持つようになり、ラトビアのマリス・ヤンソンスさんの指揮に憧れて、なりたいなと思うようになった」。
小学生のとき来日公演を聴いて、オーケストラと一体になっている指揮者だと感動したそうだ。

コート=ウッドは「もともとヴァイオリンを学んでいて、ヴァイオリニストとして演奏もしているが、その経験が指揮でとても役に立っている。音楽大学に通っていたとき指揮も必修で、友達の多くは嫌がっていたが、僕には苦手意識はなく、興味を抱いた」。
大勢の仲間と音楽を作り上げていくのが好きなタイプとみえる。本選では、聴衆のハートもわしづかみにしたようで、投票による「聴衆賞」も受賞。

最後に、ミハイリディスが「僕はピアノとヴァイオリンで音楽を学び始めた。兄が指揮をしていたので自分もやるとは思わなかったが、アメリカの大学で音楽を学んでいたとき、やってみて面白いと感じ、素質もあるのではと思った。自分で演奏するより、指揮する方が楽しい」と語った。
ギリシャの音楽一家に生まれ、欧米に留学後、キャリアも重ねて今コンクールに臨んだ。



会見は以上で、フォトセッションをして終了となった。 (文・原納暢子)