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HOME > NEWS > [2024] 本選レポート

講評 音楽評論家:山田治生



●No.68 コルニリオス・ヴィクトル・ミハイリディス



第1位は、ギリシャからのコルニリオス・ヴィクトル・ミハイリディス。現在35歳。すでにプロの指揮者として活躍し、マドリードのレアル劇場でモーツァルトの歌劇「魔笛」やアダムズの歌劇「中国のニクソン」を指揮した経験を持つ。まず、藤倉大の「Glorious Clouds」。音楽の流れが良く。オーケストラとも良いコミュニケーションが取れている。約17分の一続きの曲で、楽曲を十分に解釈しないと単調になってしまいかねないが、ミハイリディスの指揮からは、楽想の変化(ここはどういう性格の音楽か)がしっかりと伝わってくる。自由曲では、ショスタコーヴィチの交響曲第10番の第3、第4楽章。第3楽章から丁寧な指揮、音楽の流れはよい。弦楽器から意味深い響きを引き出す。第4楽章は躍動感があり、堂々たるエンディングで締め括られる。新日本フィルハーモニー交響楽団(コンサートマスターの崔文洙が好リード)の力を上手く引き出していた。オーケストラ賞も当然といえるだろう。

 

●No.209 ライリー・ホールデン・コート=ウッド



第2位は、イギリス出身のライリー・ホールデン・コート=ウッド。27歳。既にプロとしての活動を行っている。まず、藤倉大の「Glorious Clouds」。指揮棒に表情があり、左手もうまく使い、変化に富む解釈を披露。そして微生物の世界にイメージを得たこの作品自体が変化に富む音楽であることに気づかせてくれた。つまり、彼の描く音楽には、ストーリー性のようなものまで感じられた。先を見越した俊敏な指揮で、オーケストラに指示を出していくところも素晴らしい。自由曲は、メンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」の第1,第4楽章。暗譜での指揮。音楽の移り変わりにともなう、指揮棒の変化も巧み。情感を込めて第1楽章が始まる。音楽は引き締まり、推進力がある。起伏に富み、はっとするような弱音表現もあった(たとえば、第1楽章のアレグロの主部に入ったところ)。第4楽章も、速めのテンポでキレがある。そして心躍るようなコーダで締め括られた。



●No.124 吉﨑 理乃



第3位の吉﨑理乃は東京藝術大学大学院在籍。23歳。まずは、藤倉大の「Glorious Clouds」。終始、拍をきちんと取るきれいな振り方。ぶれることがない。ただし、指揮に変化が感じられず、彼女がこの作品をどのようにとらえているのかはほとんど伝わってこない。オーケストラとのコミュニケーションも十分に取れているとはいいがたい。「Glorious Clouds」のような大管弦楽の複雑なスコアを指揮するとき、もちろん、最後まで事故なく振り通すことは最重要事項である。しかし、自分がこの作品に何を感じたのかという解釈(作曲者の意図したものと異なっていてもかまわない)をオーケストラや聴衆に伝えることこそが指揮者の仕事だと筆者は思うが、彼女の指揮にはそれが感じられなかった。R.シュトラウスの交響詩「死と変容」でも、正確で美しい指揮を披露。ただし腕(左手)の動きが単調に見える。ゆえに楽想の変化もあまり感じられない。それでも、曲の後半では、少し大胆になり、彼女自身の表現を聴くことできた。



●No.171 岡崎 広樹



入選の岡崎広樹は、東京藝術大学の声楽科を卒業後、現在、同大学の指揮科で学んでいる。25歳。まずは、藤倉大の「Glorious Clouds」。冒頭から楽想に合った滑らかな指揮。オーケストラ奏者を見て、合図を出すのも良い。音楽に呼吸が感じられる。左手の握り拳で表現したフェルマータが印象に残った。自由曲はチャイコフスキーの交響曲第4番第1楽章。オーケストラにとっては演奏頻度の高い名曲だが、指揮者にとっては決して容易な作品ではない。岡崎は情感豊かな指揮を披露。ただし、音楽の流れが些か悪いように(引き摺るように)感じられる部分もあった。たとえば、365小節目からは、木管楽器がよく歌っていたが、その分、音楽が些か停滞し、弦楽器の動きが聴こえにくいようにも思われた。また、第1、2ヴァイオリンと木管楽器陣が弱音で応答する箇所では、もう少し軽い音がほしいと感じた。それでも、熱のこもった指揮は聴き手に訴えかけるものがあった。