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第一次予選レポート
●レポート
第一次予選はモーツァルト。18名が1人20分間で、交響曲第38番「プラハ」の第1楽章、第2楽章のそれぞれの前半、歌劇「魔笛」の第1幕フィナーレからタミーノと僧侶のレチタティーヴォを指揮し、リハーサルを行う。演奏は東京フィルハーモニー交響楽団(それぞれの指揮者への反応が素晴らしい)。独唱は中井亮一と田中大揮。だいたいのコンテスタントは、楽曲を通し、自分が直したいと思う箇所を振り返るというスタイルでリハーサルを進めた(いきなり、少しずつ止めてリハーサルする者もいた)。モーツァルトの交響曲第38番では、バトンテクニックではなく、その人の持つ音楽性や音楽の感じ方・こだわりが問われていたよう思わる。「魔笛」は、歌手たちが指揮者の背後で歌う配置が採られた。レチタティーヴォは、若い指揮者にとってはなかなか指揮する機会がないに違いない。単に歌手に合わせるだけでなく、作品を理解し、音楽的な変化をどうオーケストラに伝えるかが重要であるように思われた。
通過者講評 音楽評論家:山田治生
●No.56 喜古 恵理香

東京音楽大学と同大学院で学んだ後、すでに国内のいくつものプロ・オーケストラを指揮している喜古恵理香。交響曲第38番では、開放的な指揮でスケールの大きい音楽が作られた。音楽の喜びが溢れてくるような演奏であった。強弱のコントラストや音のスピード感などを指揮でしっかりと伝えているところも素晴らしい。もう少し翳りがほしいところもあったが。「魔笛」は、思い切りのよい指揮で、ドラマティックに描く。
●No.68 コルニリオス・ヴィクトル・ミハイリディス

コルニリオス・ヴィクトル・ミハイリディスは、ギリシャ出身で、アメリカやフィンランドで学ぶ。音楽の表情をよく表す指揮。交響曲第38番では、オーケストラに一層の起伏やダイナミックスの幅を求める。第2楽章はメリハリがありながらも美しい演奏。「魔笛」は、全曲を指揮した経験があるようで、作品が身体に入っていた。オーケストラをコントロールしながらも、音楽は自然な流れ。レチタティーヴォでの合いの手の変化が絶妙であった。
●No.90 高橋 達馬

高橋達馬は、東京藝術大学、同大学院で学んだ後、ハンス・アイスラー音楽大学を卒業。指揮は堅実。楽曲の細部までにこだわりがあり、それをリハーサルで言葉を使って説明していたのが印象的であった。たとえば、交響曲第38番で、モーツァルトが少年時代からいろいろなところを旅していろいろな風景を見てきた話をしてから、音楽の表情の変化を求めたり、「魔笛」では弁者に場面を説明して歌い方の指示をしたりもしていた。
●No.106 神成 大輝

神成大輝は、東京藝術大学、同大学院で学ぶ。2023年9月から仙台フィルハーモニー管弦楽団の副指揮者のポストにある。指揮の表情は豊か。交響曲第38番第1楽章の序奏(アダージョ)から主部(アレグロ)に入るところで「2つに振るが、(楽譜通りの)4分の4拍子で感じてほしい」と適切に指示。「魔笛」は通すだけになってしまったが、細かなところまでよく準備をしてきているように感じられた。
●No.124 吉﨑 理乃

吉﨑理乃は、北鎌倉女子学園高校ピアノ科を卒業し、東京藝術大学で指揮を専攻。現在は同大学院で学んでいる。紀尾井ホール室内管弦楽団の指揮研究員。交響曲第38番第1楽章序奏は、慎重に進められていて、あまり音楽に勢いを感じなかったが、主部では着実に音楽が流れ出す。彼女は、自分の音楽を表現しようというよりも、正確に振ることに意識を集中しているように感じられた。「魔笛」も、通すだけであったが、堅実な指揮を披露。
●No.156 ニキタ・ソローキン

フランスからのニキタ・ソローキンは、サンクトペテルブルグ音楽院、パリ国立高等音楽院で学ぶ。フランクフルト放送交響楽団でアルティノグリュのアシスタントを務めた。長身から繰り出される指揮は多少ぎこちなく感じられるが、聴こえてくる音楽の表情は豊か。オーケストラへの説明は適確で、交響曲第38番第2楽章の冒頭部分をうまく作り上げた。「魔笛」では、歌手とも話し、オーケストラから表情ゆたかな音楽を引き出していた。
●No.171 岡崎 広樹

岡崎広樹は、東京藝術大学の声楽科を卒業後、現在、同大学の指揮科で学んでいる。交響曲第38番第1楽章では序奏から指揮棒で突き刺すような指揮を披露したが、音楽は丁寧に作ろうとしているように思われた。「鐘のように」や「ホール中に響かせて」など、言葉での指示もわかりやすい。「魔笛」では、声楽出身だけあって、オーケストラの合いの手が柔らかい。そして、劇的なところではオーケストラから激しい音も引き出した。
●No.176 村上 史昂

村上史昂は、東京藝術大学を卒業。ピアニストとして国内コンクール入賞歴あり。現在、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団指揮研究員。交響曲第38番は、音楽の流れが自然で、指揮が音楽の表情をよく表している。「魔笛」でも、適確な合図でオーケストラをリード。タミーノの歌うところと弁者の歌うところで、オーケストラに音色を変化させるなど、細やかに音楽を作り上げた。
●No.209 ライリー・ホールデン・コート=ウッド

ライリー・ホールデン・コート=ウッドはイギリス出身。ギルドホール音楽演劇学校ではヴァイオリンを専攻。交響曲第38番の第1楽章序奏から、腕の動きが音楽をよく表現する。指揮棒の動きが柔らかく、音楽が生き生きとしている。オーケストラへの一歩先んじた指示が素晴らしい。第2楽章は速めの良いテンポ。冒頭はシンプルに演奏させる。強弱のダイナミズムもはっきり。「魔笛」では、緩急をつけて、自分の音楽を表現。合図がはっきりとしていて、オーケストラも明確な音を出す。
第1次予選 独唱:中井亮一氏(左)、田中大揮氏(右)
